邦訳が出たときにこれは絶対に読もうと思っていたのにもう3年も経ってしまった。元プロロードレーサーのタイラー・ハミルトンが、ドーピングの内実を赤裸々に告白したノンフィクション。原著は2012年のウィリアムヒル・スポーツブック・オブ・ザ・イヤーを受賞している。
癌からカムバックしたランス・アームストロングがツール・ド・フランス制覇を目標に掲げ、ついにはツール7連覇を果たす一方で、周囲を巻き込んでの組織的なドーピングを何年も続けていたことを、元チームメイトのハミルトンが暴露。この本を読むと、ドーピングをしたやつは悪!という単純な図式では済まなくなる。自転車界全体がドーピングに染まっていて、プロとしてキャリアを積み重ねていくときに迫られる選択肢が、ドーピングをして競技を続けるか、ドーピングをしないで競技を去るか、の二択なのだ。もちろん主催者サイドだって検査はしているが、UCIがランスの陽性結果を隠蔽したように、大本営がドーピングに加担していたということもある。みんなが当たり前のように薬をやっている中、大レースでの勝利と名誉を得られるのなら、薬に手を出すのは当然のこと。本書で告白されるドーピングの手口はどれも生生しいものだが、背景にまで思いを馳せると、一概にドーピングをした選手やチーム関係者だけを責めて終わりにはできない。構造的な問題であって、個人の問題ではないのだ。
この本を書くことについて、大変な苦悩と葛藤があったと導入部で述べているが、出版を決断したハミルトンに賞賛を送りたい。
- 作者: タイラーハミルトン,ダニエルコイル,Tyler Hamilton,Daniel Coyle,児島修
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/05/08
- メディア: 文庫
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